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植物性タンパク質と拡張型心筋症(DCM)の関連について
2018年7月にFDAがエンドウ豆、レンズ豆、その他のマメ科植物の種子、またはジャガイモを主成分として含むドッグフードや、穀物の代わりにこれらの食材が多く使われやすい穀物不使用(グレインフリー)のドッグフードを食べた犬のDCMについての報告の調査を始めました。
しかし2022年12月にこれらの因果関係を立証するにはデータが不十分であると結論付けました。
FDAで調査を始めたことにより、植物性タンパク質を主要タンパク源とするドッグフードを摂取した場合のDCMの潜在的なリスクについて懸念されるようになりました。
これによってグレインフリーに対する風当たりが強くなった時期もありました。この件に関してはアメリカでヒルズが集団訴訟が起こっていますね。
しかし2023年4月にはカナダのゲルフ大学の研究チームによって原材料に豆類が使われているドッグフードが心臓に影響を与えず、安全であるということを公表しました。
結論:グレインフリーはDCMと関係がない
そもそも2009年から2019年の10年間でグレインフリーのドライフードのシェアは43%を占めていました。しかしアメリカの循環器専門動物病院の68,000件以上のデータを分析してもその間に拡張型心筋症は増えても減ってもいませんでした。
さらに今回、カリフォルニア州ポモナの保健科学大学とカリフォルニア大学バークレー校が「エンドウ豆タンパク質を主成分とする、栄養的に完全な市販の植物ベースの食事を12か月間にわたって与えた場合、臨床的に健康な成犬が健康を維持できることを確認しました」という研究成果を発表しました。それどころかビタミンD欠乏症を改善した可能性もあるとのことです。
それが今回ひとつの結果として公開された形といっても良いかもしれません。
原因は植物性タンパク質ではなく、タウリン不足を気にしよう
また、これらについてはタウリン欠乏が一部の犬種が栄養性拡張型心筋症(nDCM)を引き起こす可能性があることがわかっており、以前よりペットフードメーカーや工場でもタウリンを添加するという対策が行われていました。
参考:Taurine deficiency and dilated cardiomyopathy in golden retrievers fed commercial diets
生後 0、6、 12 ヶ月の犬の血中のcTnI、NT-proBNP濃度の散布図
この調査ではエンドウ豆タンパク質を主成分とする、栄養的に完全な市販の植物ベースの食事を12か月間にわたって与え、0、6、12ヶ月の時点で全ての犬の心臓バイオメーカーを評価しています。
Concentrationは濃度を表しています。
Cardiac Troponin lとは
筋収縮を調整するタンパク質複合体で、心筋梗塞などの病態で心筋障害が起こると、血中にTroponin lが漏れ出て血中濃度が増加します。12ヶ月が近づくにつれてCardiac Troponin lは減少しています。
NT-proBNPとは
心臓から分泌されるホルモンの一種です。心機能が低下して負担が大きくなるほど血液中の濃度が高くなります。こちらも12ヶ月が近づくにつれて検出可能な下限値に近づいています。
結果考察
結果的に0ヶ月から12ヶ月までの間で有意な差は観察されず、数値も下降傾向であることが観察されました。これらによって植物性タンパク質を主要タンパク源としたドッグフードや比較的多く含まれやすいグレインフリーなどの食品がDCMに対して特異的ではないことがわかりました。
生後 0、6、12ヶ月の犬の血中のビタミンA、25-ヒドロキシビタミンD、ビタミンE濃度の散布図
0ヶ月時点で臨床的には健康な犬であるはずのほぼ半数の犬でビタミンD欠乏が見られました。320頭のサンプルのうち、85%の犬がビタミンD欠乏症だったという測定もあります。しかし植物性たんぱく質が主要なフードを食べてほとんどの犬で6ヵ月で正常化し、1年後には全ての犬で正常化しています。
この試験は栄養的に完全な植物ベースの食事を犬に与えた最長の臨床給餌試験にあたるであろうとされています。
犬のビーガン食の安全性について
これらの結果から考えればビーガン食は安全であるといえます。
雑食寄りの肉食である犬にとって、ビーガン食が正しいかどうかという思想的な問題は存在するかと思いますが、科学的な面からは問題がないという判断が正しそうです。
新しいタンパク源を使用する場合は栄養素欠乏の潜在的リスクを評価することが大切
昆虫食や培養肉が新たに開発され、ペットフードに使われ始めています。これからもまた違った食材やレシピが登場することと思います。
このような場合は短絡的に評価せず、長い目で確認していく必要があるのかもしれません。