目次
猫の免疫構造の概要
猫の免疫系は、大きく分けて「自然免疫(先天性免疫)」と「獲得免疫(適応免疫)」の2つで構成されています。
1. 自然免疫(先天性免疫)
自然免疫(先天性免疫)は、猫をはじめとする生物が生まれつき持っている防御システムで、病原体が体内に侵入したときに最初に反応する免疫機構です。
主な構成要素 | |
---|---|
皮膚・粘膜 | 物理的バリアとして働く |
食細胞(マクロファージ、好中球など) | 異物を食べて排除する |
補体系 | 血液中で異物に反応し破壊するタンパク質群 |
自然免疫NK細胞 | ウイルス感染細胞や腫瘍細胞を直接攻撃 |
2. 獲得免疫(適応免疫)
獲得免疫(または適応免疫)は、猫をはじめとする動物の身体が「特定の病原体に対して学習し、記憶して、防御する仕組み」です。自然免疫(生まれつきの広域防御)と異なり、一度出会った敵を覚えて次は素早く強く対応するのが大きな特徴です。
ワクチンなども獲得免疫うぃ利用した病気の予防法です。
主な構成要素 | ||
---|---|---|
T細胞(ヘルパーT細胞、キラーT細胞など) | 細胞性免疫に関与 | |
B細胞 | 抗体を産生して体液性免疫に関与 | |
抗体(免疫グロブリン) | 病原体を中和し除去 | |
リンパ器官 | 胸腺 | T細胞の成熟場所 |
脾臓・リンパ節 | 免疫反応の中心拠点 |
猫特有の免疫「インターフェロン応答」
インターフェロン(Interferon)は、ウイルス感染などに対して、体内の細胞が分泌する情報伝達物質(サイトカインの一種)です。サイトカインとは免疫系細胞から分泌されるタンパク質です。ウイルスに感染すると、その周囲の細胞がインターフェロンを出して「ウイルス来たぞ!警戒しろ!」と他の細胞に警報を出します。
人や犬と違い、猫にとってはIFN-ω(オメガ型インターフェロン)がウイルス防御にとても有効とされています。
猫は他の動物よりもオメガ型インターフェロンに強く応答してウイルスと戦う能力があるため、治療でもこの特性を活かします。
ただし人用や犬用のインターフェロンは猫では効果が薄かったり、副作用が出ることもあるため、猫用インターフェロンを使用することが重要です。
猫のインターフェロンの産生を助ける栄養素と食品
L-リジン(アミノ酸)
ウイルスの増殖を抑制し、猫風邪(ヘルペスウイルス)の症状緩和に役立ちます。猫の免疫システムがウイルスと戦うのを助け、再発予防効果が期待されます。
アルギニンとのバランスを調整することでインターフェロンの活性を間接的に高める可能性があります。サプリなどもあり、良く処方されるひとつです。
参考:Fortify your cat’s immune system with L-lysine
リジンが含まれる食品
肉類や魚介など動物性たんぱく質に豊富に含まれます。高タンパクな鶏ささみやマグロなどを日々の食事に取り入れることで自然に摂取できます。必要に応じてリジン添加サプリやリジン強化フードで補給する方法もあります。
β-グルカン
マクロファージや樹状細胞など自然免疫の活性化することでインターフェロン産生誘導すると考えられています。
β-グルカンが含まれる食材
キノコ類(シイタケ、マイタケ、アガリクス茸等)やパン酵母由来の食品に良く含まれています。
ただ猫に生のキノコを与えることはできず、加熱の必要がありますし、多くは与えられませんので、やはり加工済みのサプリがおすすめです。
DHA・EPA
抗炎症作用、免疫バランス調整が期待でき、結果的にインターフェロンの誘導をサポートする可能性があります。
抗炎症作用により慢性炎症を軽減し、免疫機能をサポートします。皮膚・被毛の健康維持や関節のケアにも有用で、免疫バランスを整えます。
DHA・EPAが含まれる食材
青魚のサーモン、イワシ、サバなどに多く含まれていますが、猫用のフィッシュオイルサプリが与えやすいと思います。
ビタミンC・ビタミンE・亜鉛
免疫細胞のストレスを軽減することで、自然免疫やインターフェロンの働きを間接的に支える可能性があります。
ビタミンC、ビタミンE、亜鉛は自然の様々な食品に含まれていますが、ピンポイントで与えることは難しいので猫用サプリがおすすめです。
アラビノキシラン(ライスブラン由来)

アラビノキシランってなんでしょうか?
あまり聞いたことはありませんよね。ライスブランとは米ぬかです。
アラビノキシラン(ライスブラン由来)はナチュラルキラー細胞やインターフェロンの活性を高めるとされる機能性成分で免疫サポート系のサプリメントに使われています。
アラビノキシラン(arabinoxylan)とは食物繊維の一種である多糖類(ヘミセルロース)の一種で、アラビノース(arabinose)とキシロース(xylose)という糖が主に構成成分です。
米ぬかはアラビノキシランを比較的多く含んでいて、特に免疫調節作用や抗酸化作用があるとされるため、ライスブラン由来のアラビノキシランが注目されています。
おすすめできるかまではわかりませんが、例えば以下のような商品があります。
動物用医薬品のネコインターフェロン(組換え型)製剤
主にネコカリシウイルス感染症やイヌパルボウイルス感染症の治療に用いられる薬としてインターキャットという薬があります。
インターフェロンは1954年にウィルス増殖を抑える効果がある物質として長野博士等によって発見されたものです。
インターフェロンは1種類だけではなく、α型、β型、γ型、ω型など様々な形が存在します。
インターフェロン製剤はほとんど副作用がないというメリットがありますが、価格が高く、絶対に効果があるとは言えない点が難しい部分です。
インターフェロンの働き
抗ウイルス作用
ウィルスは細胞の内側に入り込んでタンパク質を合成し、新しいウィルスを合成して増殖します。
インターフェロンは細胞の特定部位と結合し、細胞の核に信号を送って抗ウイルスタンパクを作ります。これによってウィルスのタンパク合成が阻害されることでウィルスが抑制されます。
つまりウィルスを殺すのではなく、ウィルスが存在できないようにする方法です。
抗腫瘍作用
腫瘍細胞のDNA合成を抑制し、腫瘍細胞の分裂を遅らせ、腫瘍細胞のタンパク合成を抑えます。
免疫系への作用
インターフェロンが腫瘍にかかっている動物の免疫系であるT細胞、ナチュラルキラー細胞、キラー細胞、マクロファージに働きかけることで、これらの細胞を活性化させて腫瘍細胞を攻撃します。これがインターフェロン応答です。
まとめ
- インターフェロンは猫の免疫系細胞に働きかけて細胞を活性化する
- 食事からでもインターフェロンの産生を助けることができる
- インターフェロン製剤は治療法の確立されていない猫伝染性腹膜炎の治療から、治らないかぜ症状まで利用される