前回EUのペットフード基準についてお話をしました。
その続きとして、EUの厳しい基準によってペットフードに生じているデメリットについて解説したいと思います。
目次
農薬に関する制限
農薬使用量の基準
EUでは農薬使用量に厳しい基準を課しています。
土壌中での半減期が180日(約半年)を超える農薬は原則として登録保留か、使用制限となっています。
さらに、半減期が100日を超える農薬を使用する場合は、次作の作物に影響を与えないよう追加の試験が義務づけられています。
また、農作物への残留農薬量が厳しく管理されていることから、自然と農薬量も制限されることになりますが、土壌の残留農薬も厳しく管理しないと農作物MRL違反(最大残留基準値違反)となってしまいます。
こうしたことも含めて、EUでは土壌モニタリングも行われるようになりました。
土壌モニタリング
EUは農薬使用量だけでなく、土地の残留農薬の基準も厳しく設定されています。
2025年12月16日から土壌モニタリング方が施行されたことにより、農地を含む全ての土壌の健康状態を調査、監視することが義務づけられています。
2030年までに土壌汚染が人の健康や生態系に有害とならないレベルまで削減することが目標とされています。
つまり土地の健康診断が行われるということです。農地を含む「全ての」土壌です。日本では考えられないのではないでしょうか。
農薬制限により生じているデメリット
農薬を厳しく制限することによって多種多様なデメリットが連動して生じています。
害虫被害
一番は害虫被害です。虫付きや虫食いによる見た目の品質の低下が起こります。
EUではこれを安全の印と考える傾向にあり、日本ではデメリットです、がEUではデメリットとはいえないかもしれません。
収穫量の減少
農薬による防除の制限によって害虫被害、病害が増加し、収穫量が減少する場合があります。
労働の増加
農薬による防除ができないことにより、手作用や管理の必要性が増え、時間的、身体的な負担が増加しています。
生産コストの増加
労働が増加することにより、生産コストが高まります。また、農薬以外の防除技術の導入が必要となり、生産コストが増加します。
収入の減少
上記から農家の収入が減少します。労働、コストが増加したにもかかわらず収入が減少することで農家の不満も大きくなっています。
競争力の低下
必然的に価格が上昇するため、海外からの輸入品の方が安く、競争力が低下しています。
食糧自給率の低下
重労働で低収入、競争力のない商品となると作り手が減少し、自給率が下がります。
不満の増加
農業従事者の不満が増加し、デモ・抗議が生じることで農薬使用量半減目標などの撤回が行われたり、環境政策の停滞、縮小が生じています。
ペットフードへの影響(ロットごとの完成品のバラツキ・食いつきの変化)
何をもって品質が良いとするのか
海外へ行ったことがある方、スーパーを利用したことがある方などはよくご覧いただくかと思いますが、EU各国のスーパーの野菜に虫がついていたり、若干痛んでいるのも珍しくありません。酷いと廃棄品のようにみえるものが並んでいることもあります。減農薬が進んでいますので虫付き、虫食いも多くなっている印象もあります。
虫食いがない野菜の方が怪しいという考え方もあり、虫食いがあるだけ農薬が付いていない安全な食品であるというバロメーターにもなっています。こうした考え方からもEUでは添加物や農薬を規制していることに自信を持ち、100%国産を売りにしているものが良くあります。
このように考え方が日本とは根本的に違います。日本では虫食いや痛みなどは販売されず、廃棄です。販売すれば衛生面を指摘されかねません。日本人は日本国産の信用度が高いので国産を購入する傾向にありますが、果たして何を持って品質が良いとするのかは国や考え方によって大きく変わってきます。
旬による原材料の品質のバラつき
日本は年中同じような品質、見た目の野菜を食べることができますが、世界ではそれが当たり前ではありません。
減農薬政策を行っているEUではより顕著です。旬ではない時期の果物は味が全く異なります。旬ではないリンゴの酸っぱさは日本では体験できませんが、EUでは当たり前です。
それが当然なのですが、日本では年中食べられる野菜・果物ばかりですし、糖度や味も大きくはかわらず、時季外れでも甘いリンゴを食べることができます。
このように農産物、特に野菜や果物に関しては「日本で良いとされる野菜」と「海外で良いとされる野菜」には大きく違いがあります。
完成品のバラつき
このようにEUでは旬などによって原材料の味に大きく違いが生じるため、ヨーロッパ産の商品の方が完成品にバラつきが生じやすいといえます。
そこまで違うのですから、どのように作っても粒の発泡具合や硬さも変わりますし、香りや食いつきにも変化が生じます。
これは仕方がないことで自然なことなのですが、日本では受け入れられない傾向にあり、弊社でもお客様からロットのバラつき(大きさや色味、香りなど)によるお叱りをいただくこともあります。
何が正しいか、何が良いものかを考えて開発・提供しても、必ずしも全員にとって良いものかはわからないというジレンマが生じてしまう部分でもあります。
ある種、これが農薬や添加物から離れることができない理由ともなっています。
食いつきの変化
結果的に、ロットごとの完成品の違いによって食べる食べないが生じることがあります。
愛犬・愛猫が食べることを重視するのであれば、原材料をより均一化するための農薬や、製造時の添加物は使用せざるを得ないと思います。反面、農薬や添加物は受入れられないが、完成品はいつも同じであってほしいということも不可能です。
日本の製品のバラツキのなさは凄いと思います。これは上記のような様々な事情によって成り立っていることです。
このように自然を求めるにつれて、愛犬・愛猫にとってどれが良いのかを判断する力が必要になってくるといえます。
日本が食の安全性に対する意識が低いわけではない
衛生面の意識の高さ
日本は日本人の衛生感覚のレベルが高く、また顧客も世界一厳しいとも言われていることから、世界でもトップクラスの衛生環境を誇ります。
EUのような厳格な規制があるわけではないため、各工場、良心、消費者の監視によって成り立っている部分も大きいと感じることも事実です。
「日本人だからこそ成り立っている」これは日本人として誇らしいことでもありますが、反面とても危ういものであることは確かです。
国ごとの農業の違いによる事情
日本は湿度が高く、温度変化も大きい国のため、防虫防除の必要性が高く、農薬使用量が多い国です。
土地柄仕方がないことであり、科学的に問題がないとされる量の使用ですのでそれ自体が問題であるということではありません。
一例としてEUではミツバチや人への健康懸念があるネオニコチノイド系農薬の使用禁止を行い、大きな影響がありました。
日本では欧米のように、農薬の粉塵が広範囲に巻き上がるような方法では播種していないという理由から制限は行っていません。このように国ごとに農薬の使用方法の違いもあります。
また、日本の特色として水稲は主要な作物のため、カメムシの防除が重要となり、ネオニコチノイド系殺虫剤が優れた防除効果を持ち、その他の農薬よりも安全性が高いから使われるという、国ならではの事情もあります。
とはいえ日本も放置しているわけではありません。日本も農薬取締法改正などを行い、安全性の評価を厳格にしています。
国や地域によって考え方、作物、必要な事情に差があるため、どれが正しいかを論じるのは難しいと言えるでしょう。





