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AAFCOの基準の見方
AAFCOの基準には1997年と2016年の基準があります。長年使用されてきた実績から1997年の基準を採用しているペットフードメーカーも少なくありません。
それでも新しい基準ができたならそっちの方がいいんじゃないですか?
1997年から2016年では大きく変動したと言われています。それはそもそもの基準が変わったからです。
1997年は3,500kcal ME/kgを前提とし、2016年は4,000kcal ME/kgを前提としています。
つまりはどういうことでしょうか…?
AAFCOの栄養プロファイルにはふたつのプロファイルがあります。
- 栄養素濃度プロファイルである乾物基準(%)
(“2016 AAFCO CAT FOOD NUTRIENT PROFILES BASED ON DRY MATTER) - 栄養素量プロファイルであるカロリー含有量基準(g)
(2016 AAFCO CAT FOOD NUTRIENT PROFILES BASED ON CALORIE CONTENT)
参考:2016_Midyear_Committee_Reports_w_cover (PDFファイル)
AAFCOの栄養プロファイルについては栄養素濃度プロファイル(%)だけで語られることが多いのですが、栄養素量プロファイル(g)も確認する必要があります。
2016年版では根本が変わったため、長年の実績がある1997年のプロファイルを基準としているメーカーもあります。
それではこの栄養素量プロファイルを紹介していきます。
栄養素量プロファイル(カロリー含有量基準)とは
栄養素量プロファイル(g)ってなんですか?
栄養素量プロファイルとは栄養素量をカロリーあたりのグラム数で表示しています。これによって摂取しなければいけない栄養素の最低量がわかります。
栄養素濃度プロファイルが相対量で、栄養素量プロファイルは絶対量であるといえます。
よく意味が全くわかりません…
フード名 | タンパク質(乾物%) | 1000gあたりのkcal | 1000gあたりのタンパク質量 | 1000kcalに含まれるタンパク質量 |
---|---|---|---|---|
AAFCO 2016 成猫下限 | 26% | 4,000kcal | 260g | 65g |
AAFCO 2016 成長期 妊娠期猫下限 | 30% | 4,000kcal | 300g | 75g |
ロニーキャットフード | 36% | 4,100kcal | 360g | 87.8g |
エリザベスキャットフード | 36% | 3,810kcal | 360g | 94.4g |
上記表をみてください。AAFCOの2行が栄養素量プロファイルのタンパク質量を表した部分です。
AAFCOでは1000kcalに含まれるタンパク質量が成猫では65g以上、成長期・妊娠期では75g以上含まれていなければいけないということになっています。
これに対して弊社商品のロニーもエリザベスもタンパク質量が、AAFCOが定める最低量よりも多く配合されていることがわかります。
このように栄養素量プロファイルには絶対値として”1000kcal中には何gは配合してください”ということが示されています。
日本で慣習として使用されている栄養濃度プロファイルの場合、相対値(%)になりますので、栄養素を何g摂取したかがわかりませんから、栄養素量プロファイルを参考にしていただくことが大切です。
カロリーだけから給与量を計算すると、摂取栄養素量に差が出てしまう
猫にキャットフード給餌量の管理をする場合、カロリーだけから計算されることが多いので、各栄養素の摂取量にバラツキが出てしまい、結果的に愛猫の体調にも変化が生じることになります。
これは凄く重要なことですよね!実は全く栄養素が足りなかった、逆に多過ぎたってことが起こるのでしょうか…?
日本には栄養素濃度プロファイルしかないため、栄養素が足りなかったといったことは起こりうることではあります。
しかしAAFCOの基準に準拠した製品であれば栄養素濃度プロファイルにも栄養素量プロファイルにも合致したバランスになっていますので、カロリーから計算した給与量だけで考えても、健康に影響するような大きな違いが起こることはありません。
実例で紹介
それでは実例を持って紹介したいと思います。
上記の表を見てもらうと1000gあたりのカロリーではロニーの方が高カロリーですが、タンパク質量ではエリザベスの方が豊富に含まれていることがわかります。
カロリーは控えめなのにタンパク質量は多いんですね。
エリザベスはカロリーが低めなので、1日あたりの給餌量はロニーよりも多く設定されています。
上記表の通り、もともとエリザベスの方が含有タンパク質量が多いのですから、エリザベスの方が摂取タンパク質量は多いということになりますね。
それでは多過ぎたりはしないのですか?
グレインフリーは高栄養で給餌量設定が少なめになりがちですので、その点は心配ありません。あとで他の商品も紹介してみますので参考にしてください。
同じ栄養濃度の場合、カロリーが低い方が同カロリーで換算すると栄養素量は多くなる
さてこれがなにを表すかというと、もし%が同程度のキャットフードがあった場合、カロリーが低い商品ほど同カロリーで換算した場合の栄養素量は多くなるということです。
なんと!!!
とはいえ、カロリーが抑えめの商品は自然と他の栄養素も抑えめになっていることが多いです。
また栄養素濃度プロファイル(%)で上限値が設定されている栄養素は栄養素量プロファイル(g)でも上限値が設定されているので、その点は計算されており問題はありません。
ただ、そのフードが愛猫に合うか合わないかという点については味や匂い、食感などにプラスして、おおいに関係してくる点であると思います。
どこのメーカーでもAAFCOに準じる以上はこれらを考慮して考えていますので問題ないと思いますが、キャットフードを製造する上ではこうした知識も必要になってきます。
色々なメーカーで比較してみよう
各キャットフードの栄養素量
タンパク質 | 脂質 | カルシウム | リン | マグネシウム |
---|---|---|---|---|
ロニーキャットフード | ||||
87.8g | 48.7g | 2.51g | 2.04g | 0.24g |
エリザベスキャットフード | ||||
94.4g | 41.99g | 2.62g | 2.36g | 0.26g |
オリジン キャット&キトゥン | ||||
98.52g | 49.26g | 2.95g | 2.46g | 0.24g |
カナガン | ||||
83.9g | 41.23g | 3.90g | 2.71g | 0.22g |
ヒルズ サイエンス・ダイエット プロ 1~6歳 | ||||
87.04g | 53.22g | 2.33g | 1.74g | 0.21g |
ピュリナワン 成猫用 チキン | ||||
90.6g | 40g | 2.66g | 2.4g | 0.26g |
ラウズ ターキー&チキン | ||||
107.81g | 32.34g | 3.23g | 2.69g | 0.32g |
ヤラー オーガニック チキン | ||||
83.0g | 37.24g | 4.58g | 3.15g | 0.40g |
ロイヤルカナン インドア 1歳-7歳 | ||||
66.66g | 29.3g | 計算不可 | 計算不可 | 計算不可 |
ニュートロ ワイルドレシピ チキン成猫用 | ||||
104.98g | 47.24g | 計算不可 | 計算不可 | 0.31g |
上記の通り、全商品を横並びにしてカロリーだけで給餌量を計算してしまうと、摂取栄養素量に大きな違いが出てしまいます。
似たキャットフードでも全く違う一面を持つ
例えば「ラウズ ターキー&チキン(3,710kcal/1000g)」と「ニュートロ ワイルドレシピ チキン成猫用(3,810kcal/1000g)」で悩んでいたとします。
カロリーはあまり違いがありませんので、ここではそれぞれ同じ量を与えたとしましょう。
するとラウズのタンパク質量/1000kcalは107.81g、ワイルドレシピは104.98gとほとんど違いがありません。
しかしラウズの脂質量/1000kcalは32.34g、ワイルドレシピは47.24gでこちらは約1.46倍変わってきます。
ワイルドレシピは他社製品と比較してもワイルドであることがわかりますね。
同じカロリーを摂取してもこれだけ摂取栄養素量(今回の場合は脂肪量)が変わることになります。
それは体調に影響が出るのは当たり前ですね…!
このため、メーカーでは製造時点からカロリーだけでなく、他の摂取量も考慮して製造し、総合して給餌量を計算します。
私が確認している工場では、工場が基本としている給餌量を求める計算式で問題なく与えられるようにそもそものレシピ(栄養素量)を作成します。
その上でその他にも計算式の用意もあります。他の計算式ではまた違った給餌量を計算することができ、より良い方を選ぶ方式になっています。
摂取栄養素量の違いでどういった違いが出るのか
タンパク質
例えばタンパク質は筋肉や毛などの成分ですので、しっかりとした筋肉がつきやすく、毛並みが綺麗になったり、回復が早くなる可能性が考えられます。
脂質
脂質が多ければエネルギーを効率よく摂取することができ、場合によっては給餌量を抑える(少量でもエネルギーを効率よく摂取できる)ことに繋がったり、肌が乾燥せず、便の調子が良くなるといった効果も期待できます。反対に脂肪分が合わなければ便の調子が悪くなったり、太りやすいとも言えますね。
ミネラル
カルシウムやリン、マグネシウムも別々の商品で似たような%設定であったちしても、摂取栄養素量では変わってきます。例えば上記で一番カルシウムが多いヤラーと一番少ないヒルズでは2g/1000kcalも変わってきます。(全年齢対象と成猫用なのでより差が大きい)
脂肪やリンは旨味に繋がるので低脂肪、低リンは旨味が少なく、食いつきにも影響することが考えられます。
pH値
これに加えてそれぞれのフードでpH値も違いますので、カルシウムなどと合わせて考えると、AAFCOの基準値の範囲内だけ見ても、総合栄養食ながら尿路結石に配慮したものもあると言えるかと思います。
似たような原材料でも配合量に差
似たような原材料でも他の物は全然食べないのに、なぜかひとつだけ食べてくれるフードがあるといった場合は、こうした点に注目して共通点を見つけてみるのもきっかけになるかもしれません。
最後に何度も言いますが、必ず摂取栄養素量は給餌量で考えてください。
上記の表だけで判断しても、メーカーそれぞれに給餌量が違いますので、摂取栄養素量のとある項目が多いと思っていたフードが実は実際の摂取量から計算すると少なかったということもあります。
「給餌量とセットで考える」ですね!わかりました!
メーカー研究員やペットフード専門家の参考に
こうした知識を持ってペットフードを選ぶことでより細かいフード選びが可能になります。
しかし一般の方がここまで考えるのは手間も時間もかかってしまいます。だからこそメーカーの研究員や私達ペットフードの専門家が存在しています。
まとめ
- 給餌量はカロリー以外の栄養素も考えて決められている
- 似たようなキャットフードでも栄養素量には違いがある
- 好き嫌いが激しい猫の場合、好きなキャットフードの栄養素量を確認してみると良い
私も聞いたことのなかった栄養素量プロファイル。似たようなフードでも全く違う一面を持つことがあり、とても大事なことだったことがわかりました。