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猫はα-リノレン酸をEPA、DHAに変換することが苦手
前回は亜麻仁が植物性オメガ3脂肪酸の供給源であることについてお話をしました。
そこでも触れたのですが、ここで「猫とα-リノレン酸の関係」についてお話したいと思います。
猫とα-リノレン酸…
オメガ3脂肪酸にはα-リノレン酸と、DHA、EPAがあります。
α-リノレン酸 | 亜麻仁油、エゴマ油、セイヨウアブラナ |
EPA、DHA | 青魚、サケ、マグロ、マス、カニ、ムール貝、カキ |
しかし、α-リノレン酸と、DHA&EPAには違いがあり、α-リノレン酸は体内でDHA、EPAに変換する必要があります。
つまりDHAとEPAが重要なんですね!
血中のDHA、EPAを上げるためにはα-リノレン酸のままでは活用ができません。このため変換が必要なのですが、猫はα-リノレン酸からEPA、DHAへの変換が苦手であることがわかっています。犬はわずかですが変換する酵素を持っています。
植物性(亜麻仁など)と海洋性(魚油)はお互いのデメリットを補い合う関係
それだとα-リノレン酸は摂取しても意味がないということですか…?
完全に使用できないと考えられているわけではなく、全く意味がないわけではありません。
むしろ、以下に紹介する海洋性由来のオメガ3脂肪酸の酸化のしやすさを考えて、オメガ3脂肪酸の質を担保するために植物性オメガ脂肪酸(α-リノレン酸)も使用します。
海洋性、植物性オメガ3脂肪酸それぞれにメリット・デメリットがあり、補い合う形で使用されています。
魚油からとれるDHA、EPAも摂取しよう
α-リノレン酸からDHAやEPAへの変換が苦手ということは、魚由来のオメガ3脂肪酸も摂取する必要がありますよね。
魚油やフィッシュオイルと言われる原材料はだいたいオメガ3脂肪酸の供給源として使用されています。
それなら魚油がたくさん配合されているものが良さそうですね!
生臭さ、風味の劣化が懸念点
魚油は高度不飽和脂肪酸を多量に含んでいますので、著しく酸化し、生のまま使用することはほとんどありません。
また、生臭さがあります。魚油は短時間で風味が落ちやすい(異臭がする)という特徴があるため、食いつきにも影響してきます。
最初は凄く食べてくれたけど、すぐに食べなくなってしまった…では元も子もありません。こうした点からもペットフード製造ではバランスが大切になってきます。
魚油の酸化防止は貴重なオメガ3脂肪酸供給源としても非常に重要なポイントで研究が進められていますが、最近のものですが、以下がとても参考になるかと思います。
参考:公益社団法人 日本農芸化学会 科学と生物
魚油の酸化防止にはトコフェロールやローズマリー抽出物がよく使われる
なるべく酸化しない方法はないんですか?
魚油の酸化防止にはトコフェロールやローズマリー抽出物がよく使われていますし、上記リンクの通り、「トコフェロールと共にスフィンゴイド塩基を魚油に配合すると風味劣化の主因となるアルデヒド類の生成を一定期間ほぼ完全に抑制することができた。その理由は現在検討中」とありますので、日々進化しているようです。
ただそれでもどうしても酸化はしてしまいます。例えばDHAやEPAをカプセルに入れた商品を見かけたことがあるかと思います。あれはトコフェロールやローズマリー抽出物だけでは完全に魚油の酸化を防ぐことができないので、カプセルに入れているということです。
オメガ3脂肪酸の必要量
現在はオメガ6脂肪酸:オメガ3脂肪酸は5:1位がいいのでは?と考えられています。
因みに数年前は10:1でした。ではもっとオメガ3脂肪酸が多い方がいいのではないかとも考えられるのですが、現時点では多すぎるのは良くない、また、多くても意味があるのかわからないという見解が多いようです。
ただ、皮膚炎などの場合に治療目的でオメガ3脂肪酸を増やしてみるといった考え方も獣医師から聞いたことがありますので、まだ不明確な部分も多いようです。
因みに最近はヒトの場合は2:1が良いとも言われているみたいですよ。
人と犬猫では結構な違いがありますね!
含有量について考えて見る
含有量についてですが、バランスが重要なことはわかっていますが、明確な含有量が提示されていません。
それでも一応含有量について考えて見ましょう。
フード100gに対して何%配合といった記載を行っている場合、概ね含有量を予測することができます。例えば100g中オメガ3脂肪酸が0.8%であれば0.8g/100g程度であるはずです。
配合量のイメージは1.5kgのフードでガムシロップ1個分程度を配合
ここで各社のオメガ3脂肪酸の配合量を見てみましょう。
フード名 | オメガ3脂肪酸の配合量(以上) |
オリジン シックスフィッシュ | 2%(DHA/EPA 1.1 %/0.65%) |
ピュアラックス エリートニュートリション フレッシュチキン | 1.25% |
AATU 85/15 チキン | 1.2% |
ティンバーウルフ セレンゲッティ | 1.2% |
フィッシュ4キャット サーモン | 1.15% |
ハロー アダルト | 1.1% |
エデン | 1.02% |
エルモ | 1% |
オーブンベイクド グレインフリー チキン | 1% |
カナガン | 0.82% |
オリジン キャット&キティ | 0.8%(DHA/EPA 0.2%/0.2%) |
ラウズ ミールフリー ターキ&チキン | 0.8% |
ラウズ ミールフリー ターキー&チキン | 0.8% |
エリザベス | 0.7% |
ワイソン オプティマル バイタリティ | 0.7% |
ロニー | 0.6% |
レガリエ | 0.58% |
ロッキーマウンテン プレミアム グレインフリー ターキー&チキン | 0.5% |
ソリッドゴールド | 0.5% |
ナウフレッシュ | 0.48% |
ブルーバッファロー 体重管理用 チキン&玄米レシピ | 0.3% |
ニュートロ ナチュラルチョイス 穀物フリー アダルトサーモン | 0.3% |
カントリーロード | 0.3% |
この表では中央値が0.8%程度ですが、オメガ3脂肪酸、オメガ6脂肪酸を公表していないメーカーも多いので、この中央値は全く当てにならない点には注意してください。
0.8%であれば1kgで8g、1.5kgで12g程度となります。
よくあるガムシロップが13g程度なので、1.5kgのドライフードにガムシロップひとつ入れている位の感じでしょうか。
表示されている含有量からでは利用可能なオメガ3脂肪酸の量はわからない
ここから更に、α-リノレン酸とEPA&DHAの割合が関わってくるので、上記の中央値は本当に意味がないということがわかると思います。
- 記載上の配合量が多くても、α-リノレン酸が多い場合は活用できる量は少なくカウントできます
- 記載上の配合量が少なくても、EPA&DHAが多い場合は活用できる量は多くなります
α-リノレン酸とEPA&DHAの割合次第で活用できるオメガ3脂肪酸の量は逆転する場合も
このように単に配合量だけを見ると逆転現象が起こる場合もあります。
オメガ3脂肪酸の主要供給源が亜麻仁のみで多く配合されている商品Aの場合、主要供給源が魚油でやや少なめに配合されている商品Bと比べると、数値上は商品Aの方がたくさん配合されているようにみえますが、活用可能なオメガ3脂肪酸で考えると商品Bが優勢になる場合が十分にあります。
オメガ3脂肪酸は含有量+原材料を確認しよう
このようにポイントとしては海洋性のオメガ3脂肪酸の供給源である魚油の使用はひとつの目安になるかと思います。
また、弊社では魚油にプラスしてオキアミを自然由来のEPA、DHA供給源として配合、それに加えて酸化の影響を考えたオメガ3脂肪酸の質も考えて、亜麻仁をプラスしていますので、メーカーごとに考えた原材料を採用しているメーカーもあると思います。
まとめ
- オメガ3脂肪酸はα-リノレン酸とEPA、DHAがある
- α-リノレン酸は体内でEPA、DHAに変換しなければならない
- 犬猫はα-リノレン酸をEPA、DHAに変換するのが苦手
- 魚油など海洋性オメガ3脂肪酸(EPA、DHA)が良いが、酸化しやすく質が落ちやすいので、植物性もバランス良く配合する
- オメガ3脂肪酸は含有量だけ確認しても意味がないので必ずオメガ3脂肪酸の供給源となる原材料もセットで確認をしよう
単に海洋性オメガ3脂肪酸だからメリットばかりというわけではなく、キャットフードを製造する上ではオメガ3脂肪酸の配合に絶妙なバランスが重要であることがわかりました。