【徹底解説】キャットフードと猫の腎臓病について。腎臓病を遅らせるために飼い主ができること

猫の腎臓病は何故起こるのか

AIMがうまく作用しない

AIMといわれるマクロファージのアポトーシス阻害因子といわれるタンパク質は壊れた細胞の死骸(アポトーシス細胞の残骸)をマクロファージに回収させ、腎臓の詰まりを防ぐ作用を持っています。つまり細胞の掃除役が主な仕事です。腎臓病の進行を抑える重要なたんぱく質です。

猫はAIMがIgM(免疫ブログリンM)と強く結合しています。このため、腎臓で問題が起きたときにAIMが遊離(血中から離れて腎臓に移動)しにくく、結果として猫は腎臓のゴミ掃除がうまくできず、尿細管が詰まりやすくなり、腎機能の悪化が進行しやすくなります。

濃縮尿を作る猫の能力と濃縮尿を作る負荷

猫はリビアヤマネコの時から水をあまり飲まず、腎臓で効率よく濃い尿を作って水分を節約する能力を持っています。この「高濃縮尿を作る腎臓の仕組み」が長期的に腎臓へ大きな負担をかけています。

濃縮尿を作る時に腎臓は常に高い濾過能力(GFR:糸球体濾過量)を保ち、老廃物を凝縮します。すると腎臓のネフロン(濾過装置)が常に高回転で働いている状態になります。この高負荷が長期間続くことでネフロンが一つずつ損耗し、最終的に慢性腎臓病へと進行します。

ネフロンの数が少なく、75%壊れるまで明確な症状が出ないので気付けない

猫はそもそもネフロン(濾過装置)の数が他の動物に比べてやや少ないと言われています。そのため、少ないネフロンが長年高い負荷を受け続けることになり、結果的に「余力がない腎臓」になりやすいのです。

腎臓のネフロンが75%壊れるまで明確な症状が出ないとまで言われていて、気付くことができないために、気付いたときにはかなり進行していることから、「突然腎不全になった!!!」と思われてしまうことが多い病気のひとつです。

タンパク質を多く代謝することによる老廃物の処理

猫は肉食のため、タンパク質を多く摂取します。タンパク質を多く代謝すると老廃物(特に尿素窒素、クレアチニン、リンなど)が発生します。これらを処理するために腎臓はさらに負担を強いられます。これはもちろんですがタンパク質が悪いというわけではありません。肉食動物であるがゆえ、避けられないことです。

猫の腎臓病とキャットフード

猫と暮らす全ての人が猫の腎臓病について考慮したいと考えていると思います。

結論からいうと、飼い主、ご家族にとってできることは食事管理のみです。それでも少しでも知りたい、気を付けたいという方のために、毎日の生活の中で考えられる対策について解説していきます。

1. L-シスチンを摂取する

猫はAIMがうまく作用していないことが東京大学の宮崎徹教授らの研究で判明しました。そしてL-シスチンを猫の血液に加えると、猫AIMであってもある程度IgMから解離し活性化することも発見されました。

L-シスチンを猫の血液に加えると、猫AIMであってもある程度IgMから解離し活性化することを昨年1月に見出しました。

ネコがL-シスチンを定期的に摂取し、少量ではあってもコンスタントにAIMを活性化させることで、腎臓病の予防や病態の悪化を抑制する可能があります。

参考:AIM活性化成分配合のペットフードについて 一般社団法人 AIM医学研究所

L-シスチンは以下のような食品に含まれています。これらを摂取することで少しでもL-シスチンを摂取することが可能です。

動物性食品

  • 鶏肉(特にむね肉・ささみ)
  • 豚肉(特にヒレ肉、ロース)
  • 魚(特にカツオ、マグロ)
  • 卵(特に卵白)
  • 乳製品(チーズ、ヨーグルト等)

植物性食品(量は少ない)

  • 大豆製品(豆腐、納豆、おから等)
  • ごま、ひまわりの種、アーモンド
  • 全粒穀物(オートミール、玄米)
食品 含有量(目安) 猫への適正
鶏むね肉 非常に多い 非常に良い
豚ヒレ肉 多い 量を調整すれば良好
カツオ・マグロ 多い 時々であれば良好
卵白 多い 腎臓の状況次第
大豆製品 中程度 補助的に使用
ごま・ナッツ類 少量 原則は避ける

猫の主要食材にL-シスチンが含まれている

上記の通り、猫に取って必要な動物性食材にL-シスチンが含まれています。つまり猫は意識せずともL-シスチンを摂取しているということです。

だからこそ特別にできることは実はあまりありません。

むしろL-シスチンはタンパク質のため、タンパク質過剰摂取によって逆効果になる場合もあります。このため、猫の腎臓病では量の調整が必要不可欠になってきます。

L-シスチンを使用した薬剤もいつか登場することでしょう。それまではとにかくAIMというものについて「知っておくこと」が重要であると考えています。

2. ネフロンは増やせないので少しでも壊さない

腎臓の濾過装置であるネフロン。

少ないのであれば増やす方法はないかと考えるものですが、しかし残念ながら現時点では「ネフロン(糸球体+尿細管)」を再生・増殖させる確立された方法は存在しません。ネフロンは胎児期の発生時(ヒトなら胎生9週~36週頃、猫は妊娠後期)に作られ、その後は出生後に新たに作られないためです。

しかしできることはあります。

 残ったネフロンの保護(ネフロン温存療法)

ネフロンを増やすことはできませんので、今残っているネフロンを壊さないという考え方です。例えば以下のようなものがあります。

  1. 血圧管理(腎臓の高血圧はネフロン破壊の大きな原因)
  2. 食事療法(たんぱく質とナトリウムの適正管理)
  3. リンの制限(高リン血症は腎障害を促進)
  4. 抗酸化療法(活性酸素による損傷防止)
  5. AIM療法(尿細管の詰まり予防)

慢性腎臓病治療の基本もこの温存療法です。

見ていただければわかると思いますが、基本的には食べ物でどのように配慮していくかということが日常でできることです。

以下に更に詳しく解説します。

3.血圧上昇を避ける

健康な猫はナトリウムの制限はしない

腎臓の高血圧はネフロン破壊の大きな原因となりますので、高血圧にならないよう配慮する必要があります。

しかし実は猫は塩分排出能力が高く、多少の塩分摂取で高血圧になるわけではありません。

だからといって高塩分でもよいというわけではありません。市販のキャットフードであれば0.2%〜0.6%程度に計算されているので直接的に影響することはないでしょう。

腎臓病が進行した場合に段階的にナトリウムを制限する

腎臓病が進行すると排出能力が下がりますので、そうした場合には塩分制限は効果的です。療法食ではナトリウム含油量を0.2%程度まで抑える場合もあります。

しかし人とナトリウムとの関係とは異なり、猫の場合は多くが腎性高血圧(二次性高血圧)で、順番が逆です。健常猫はナトリウム負荷に強いが、腎疾患や心疾患になるとナトリウム感受性が急に上がるという特徴があります。

  1. 塩分が直接原因というより → 腎機能低下が原因
  2. でも腎機能が悪化してくると → 塩分感受性が高まる

このため、普段から気にするということよりも、段階的にナトリウムを制限することが有効であると考えられています。

猫の状態 塩分感受性 血圧上昇との関係
健康な若猫 低い(ナトリウム耐性高い) ほぼ影響しない
慢性腎臓病猫 高い 血圧上昇しやすい
心疾患猫 高い 循環血液量増加しやすい
高齢猫 やや高い 腎疾患の初期段階で血圧上昇を招く場合あり

低GI食材を使ったフードを選び、間接的に血圧上昇を避ける

血圧を直接的に下げることはできませんが、例えば低GI食材を使用しているキャットフードを利用することで以下のような配慮はできると思います。

  • 血糖値が乱高下すると、インスリン分泌が増加
  • インスリンは体内で交感神経刺激やナトリウム貯留を促進
  • 結果として血圧が上昇しやすくなる
  • 低GI食材を使用した食品で血糖値を上げないように配慮する

リンを抑えたフードを選ぶ

リンはタンパク質に含まれますので、タンパク質量を減らすことでリンも減らすことができます。

しかしタンパク質からエネルギーを作り出す猫にとって、タンパク質供給量を減らすことは体力減少につながり、生きる力が弱まってしまいます。

そこでタンパク質は減らさずにリンを抑えた商品を選ぶとよいでしょう。リンはタンパク質に含まれていますので限界はありますが、少しでも抑えられた商品がよいと思います。

ただしリンはうまみ成分のひとつですので、リンが少ないフードは食いつきが悪い傾向にあります。これが療法食を食べない要因のひとつでもあります。

おやつやウェットフードを控えめに

ウェットフードは水分補給にもよいのでドライフードと合わせて与えることは推奨できますが、与えすぎは禁物です。

ウェットフードは魚類を使用した物が多く、リンが多く含まれている場合があります。

カルシウムとリンのバランスは尿路結石にも関係しますので、あくまで控えめに、がポイントです。

猫におやつやウェットフードを併用する場合はリンの含有量に注意。腎臓を守るためにできること

抗酸化作用のある栄養素を摂取する

抗酸化作用のある栄養素は以下のようなものがあります。

例えばビタミンAは摂取上限がありますので、多ければいいとわけではありませんが、ビタミンEやビタミンCなどは意識して選べる栄養素です。

グルタチオン前駆体はシステインと追われています。L-シスチンはシステインが二量化した形で、体内に入ると還元されてL-システインになります。これらは上記で紹介したL-シスチンを多く含む食材に含まれています。

  • ビタミンE(トコフェロール)
  • ビタミンC(アスコルビン酸)
  • ビタミンA(レチノール)
  • ビタミンB群の一部(B2・B3)
  • セレン(グルタチオンペルオキシダーゼ活性補助)
  • コエンザイムQ10
  • ルテイン・ゼアキサンチン(カロテノイド系)
  • ポリフェノール(緑茶抽出物、ブルーベリーなど)
  • グルタチオン前駆体(N-アセチルシステインなど)

ガラクトオリゴ糖が腎臓不可を軽減する可能性

ガラクトオリゴ糖の摂取によって腸内細菌叢に変化を与え、尿毒素が減少することによって腎臓の負荷軽減が期待されます。

ガラクトオリゴ糖はウェットフードに使用される方が多いかもしれません。

ガラクトオリゴ糖で猫の腎臓負荷を軽減できる?腎臓の健康維持に新しい可能性

水分をよく取ってください

猫は水分摂取量の少ない生き物です。よく飲む子はラッキー位に覚えておいてください。

猫はとてもぐうたらな生き物ですので、寝ている横にあれば寝ながら飲む位ぐうたらです。水は猫の通り道など色々な場所に置いてください。

猫が水を目にする機会が増えれば飲む機会は増えますので、とにかく水を多く置くことは摂取量を増やす一番現実的な回答であると考えています。

まとめ:市販のキャットフードの多くはこれらに配慮している

結局のところ食べ物で配慮するしかありません。しかしこれを読んでいただいた方はうっすら気付いたのではないでしょうか。

市販されているキャットフードは多少の違いはあれど、多くはこれらに配慮して作られています。もちろん弊社のロニーキャットフードやエリザベスキャットフードも総合栄養食の規定値内で配慮されています。

キャットフード(ドッグフードも)は研究が進む度に改良が行われ、現在は獣医学と食の品質改善で犬猫の寿命は延びる一方です。

しかし犬猫の健康寿命の増進を願い、更に上を目指せるよう研究が行われています。

だから私たちができることは、水分を多くとってもらうことと、ウェットフードなどのおやつは楽しめる範囲内に留めて控えめにすること位かもしれません。

それでも少しでもできることはあると思いますので、気になった方は上記に取り組んでみてください。

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スギさん

新婚さんで妊娠中。子どもができたことをきっかけに家族の健康について考え、10歳を超えた愛犬愛猫の健康も考えるようになった。現在犬猫の食事について勉強中!

エノおじさん

10匹以上の猫を飼っているお酒が好きな元気なおじさん。大量のキャットフードを購入することもあり、安価でありながら安全なキャットフードを探している。
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