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養殖サーモンは体に悪い?
養殖サーモンが体によくない、含有汚染物質が多いという話があるようです。
スタッフから私に質問がありましたのでヨーロッパの現地スタッフと一緒に調べてみました。
情報があまりに古かったので海外スタッフと情報交換してみました
養殖サーモンには海洋汚染物質が多く含まれているということは海外でも同様のことが言われていました。しかしそれらも数年前と古い情報が多く、最近はトーンダウンしている話題です。
それは養殖環境が大きく変化しているためと考えられます。
特に2000年代初頭、養殖で抗生物質なども多く使われていたり、今ほどの環境が整っていなかった時のデータが多いようです。
PCBの濃度は、養殖魚の方が天然魚の5倍から10倍高いなんていう情報は大体2000年から2005年あたりともう16年以上も前の情報です。
養殖サーモンには、他の多くの残留性汚染物質が高濃度で含まれているという情報も同様です。
これを機会に私もヨーロッパのスタッフと色々話をしてみましたのでここにまとめてみます。
Dalhousie Universityの研究結果では「天然、養殖」よりも「種類」による違いが大きい
Dalhousie Universityの公式ニュースでも2020年7月に新しい調査結果を公開しています。
ScienceDirectに上げられた研究結果を見てみましょう。
Dalhousie Universityのコロンボ助教授の調査では、養殖か天然か、有機認証や環境認証かではなく、栄養の質に最も大きな違いをもたらすのはサーモンの種類であるということがわかっています。たとえば、ベニザケ、マスノスケ、パシフィックなど、彼女たちが調べたサーモンには大きな違いが出ています。
この研究では、カナダの6種類のサケの栄養素含有量を調べ、脂肪酸、アミノ酸、カリウム、鉄、コレステロール、水銀が測定されました。
養殖アトランティックは、栄養密度、低水銀、コスト、入手可能性の点で優れた選択肢
彼女が行った調査は、6種類のサーモンを購入して行われました。この時の調査では養殖アトランティック、養殖有機アトランティック、養殖有機チヌーク、天然のチヌーク、天然のパシフィックピンク、天然のベニザケです。
これらの栄養分析、水銀分析を行ったところ、養殖のアトランティックサーモンが最も水銀含有量が低く、栄養密度が高く、手ごろな価格で購入できたことを示しています。
方や、天然のベニザケは最も栄養価が高く、オメガ3脂肪酸の含有量も高いことがわかりました。
ノルウェーの養殖サーモンの抗生物質使用は収穫量全体のわずか1%
養殖に抗生物質が使われ、それが残っているとのことも言われますが、ノルウェーでは2015年には抗生物質の使用が事実上ゼロになっています。
2019年の年次報告書でもサーモン養殖に対して発行された処方箋はわずか16件でノルウェーの99%が抗生物質なしで生産されています。
ノルウェーシーフード評議会 (NSC) のCEOのレナーテ・ラーセン氏は、ノルウェーにはこれらを示す数多くの文書があるにも関わらず、いまだに養殖サーモンの抗生物質についての神話が存在していると話しています。
養殖サーモンは長年に渡って抗生物質の使用量がほぼゼロ(ゼロではない)であり、抗生物質を含んでいない安全な魚あることを確信できるということです。
参考:Norway’s salmon sector continues to dial down antibiotics use
天然のアトランティックサーモンよりも養殖のサーモンの方が汚染物質が少ない
ヨーロッパのスタッフと話していると、汚染物質などについて科学的な検証がないまま記されているものも多いようです。研究を調べたり、話を聞けば2000年頃までは抗生物質量も多く、養殖サーモンに汚染物質が多かった時がありました。
しかし汚染物質は養殖環境(場所)や餌の種類などによっても変わるため、当時言われていたことは一概に養殖全てに問題があるということではないようです。
このあたりも情報の真偽がわかりにくい部分であるように感じました。
天然の方が養殖よりも汚染物質が多い結果も
2017年の研究では天然のアトランティックサーモンの方が養殖のサーモンより含有汚染物質が多かったことがわかりました。
その原因は天然の場合は環境が制御されておらず、海洋の汚染が原因である可能性が指摘されました。
一方ノルウェーの養殖アトランティックサーモンは餌の改良などにより、汚染物質のレベルが減少しています。
水銀に関しても養殖のサーモンの方が天然アトランティックサーモンより少なかったことがわかっています。
これは先に紹介したコロンボ助教の研究とも一致します。
これらに関して以下が研究の概要となりますので紹介します。
本研究では、天然および養殖のアトランティックサーモンを対象に、ダイオキシン類(ポリ塩化ジベンゾ-p-ダイオキシンおよびジベンゾフラン)、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)、有機塩素系農薬(OCP)、金属および脂肪酸を測定しました。
ダイオキシン類、PCB、OCP(DDT、ディルドリン、リンデン、クロルデン、マイレックス、トキサフェン)、水銀の汚染物質濃度は、養殖サーモンよりも天然サーモンの方が高く、必須元素のセレン、銅、亜鉛、鉄、海洋性オメガ3脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)の濃度も高かった。
PBDE、エンドスルファン、ペンタクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、カドミウム、鉛の濃度は低く、天然魚と養殖魚の両方で同等であり、海洋性オメガ3脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)の濃度にも大きな差はありませんでした。
飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸の両方の含有量が高く、オメガ6脂肪酸の含有量も高いことから、総脂肪量は天然サーモンよりも養殖サーモンの方が有意に高かった。
オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸の比率は、オメガ6脂肪酸が多いため、養殖サーモンは天然サーモンよりもかなり低い値を示した。
アトランティックサーモンの汚染物質濃度は、欧州連合で適用されている最大レベルを大きく下回っていた。
アトランティックサーモンは養殖・天然を問わず、EPAとDHAの良質な摂取源であり、1週間に200gを摂取した場合、それぞれ3.2gと2.8gを摂取することができ、これは欧州食品安全機関が成人に適しているとしている摂取量(250mg/日または1.75g/週)の約2倍にあたります。
この研究は広範囲にわたり、各種類のサーモンの100サンプルを使用しています。天然のサーモンはノルウェー北部の海で捕獲されていますが、その魚がノルウェー沿岸の他の場所で捕獲されていたら、結果が大きく変わっていたとは考えていないようです。サーモンは回遊するため、海で捕獲される場所はおそらく関連性が限られているとの見解からです。
メディカルニュースとしては以下も研究結果を使用して大変うまくまとめられていて参考になるかと思います。
What is the difference between wild and farmed salmon?
「脂肪の多い魚」に汚染物質が溜りやすい
どうやら欧州では養殖が盛んなサーモンが話題になりがちのようなのですが、そもそも海洋汚染物質は「脂肪の多い魚」に溜りやすく、例えばダイオキシンについては日本でも毎年濃度が測られています。
下記は一例ですが2007年のものであり、正に養殖サーモンの汚染が言われている頃ですが、実際には汚染値が検出されていないこともわかります。
脂肪の多い魚といえば、皆大好きマグロやブリ、マダイなどがありますね。
平成19年度(2007年)食品からのダイオキシン類一日摂取量調査等の調査結果について
食品 | 産地等 | ダイオキシン類(pgTEQ/g) | |||
---|---|---|---|---|---|
PCDD/Fs | Co-PCBs | Total | |||
サケ(アキサケ) | 国産 | 天然 | 0.026 | 0.095 | 0.12 |
サケ(アトランティックサーモン) | 輸入 | 養殖 | 0.035 | 0.16 | 0.20 |
サケ(キングサーモン) | 輸入 | 養殖 | 0.026 | 0.25 | 0.27 |
サケ(ギンサケ) | 輸入 | 養殖 | 0.044 | 0.12 | 0.16 |
サケ(シロサケ) | 国産 | 天然 | 0.046 | 0.13 | 0.18 |
サケ(ベニサケ) ) | 輸入 | 天然 | 0.20 | 0.34 | 0.55 |
サケ(ベニサケ | 輸入 | 天然 | 0.084 | 0.19 | 0.28 |
トラウトサーモン | 輸入 | 養殖 | 0.58 | 2.0 | 2.6 |
ブリ | 国産 | 天然 | 0.44 | 1.0 | 1.5 |
ブリ | 国産 | 天然 | 0.40 | 1.6 | 2.1 |
ブリ | 国産 | 天然 | 0.30 | 0.86 | 1.2 |
ブリ | 国産 | 天然 | 2.3 | 5.7 | 8.0 |
ブリ | 国産 | 養殖 | 0.51 | 1.7 | 2.2 |
ブリ | 国産 | 養殖 | 0.83 | 2.8 | 3.7 |
マグロ(ホンマグロ) | 国産 | 養殖 | 0.54 | 4.9 | 5.5 |
マグロ(ホンマグロ) | 輸入 | 養殖 | 0.57 | 4.7 | 5.2 |
マグロ(ホンマグロ) | 輸入 | 養殖 | 0.24 | 2.5 | 2.7 |
マグロ(ホンマグロ) | 輸入 | 養殖 | 0.53 | 3.7 | 4.2 |
マグロ(メバチマグロ) | 輸入 | 天然 | 0.030 | 0.20 | 0.23 |
マグロ(メバチマグロ) | 国産 | 天然 | 0.50 | 2.9 | 3.4 |
マグロ(メバチマグロ) | 国産 | 天然 | 0.35 | 2.3 | 2.6 |
マグロ(メバチマグロ) | 輸入 | 天然 | 0.022 | 0.30 | 0.32 |
マダイ | 国産 | 天然 | 0.83 | 0.89 | 1.7 |
マダイ | 国産 | 天然 | 0.23 | 0.48 | 0.71 |
マダイ | 国産 | 天然 | 0.30 | 0.41 | 0.71 |
マダイ | 国産 | 天然 | 1.2 | 3.1 | 4.3 |
マダイ | 国産 | 養殖 | 0.13 | 0.42 | 0.54 |
マダイ | 国産 | 養殖 | 0.15 | 0.65 | 0.80 |
マダイ | 国産 | 養殖 | 0.067 | 0.38 | 0.44 |
マダイ | 国産 | 養殖 | 0.067 | 0.43 | 0.50 |
参考:平成19年度 食品中のダイオキシン類の濃度 厚生労働省
養殖サーモンのダイオキシンを問題視していると、マグロやブリは絶対食べられないほどの値です。
他にもこんなデータがあります。
食品 | 産地等 | ダイオキシン類(pgTEQ/g) | |||
---|---|---|---|---|---|
PCDD/Fs | Co-PCBs | Total | |||
鰯精製魚油 | - | - | 5.0 | 7.7 | 13 |
鰯精製魚油 | - | - | 1.5 | 3.2 | 4.7 |
鮫肝油 | - | - | 1.0 | 3.2 | 4.2 |
鮫肝油 | 国産 | - | 11 | 42 | 53 |
鮫肝油 | - | - | 1.3 | 6.1 | 7.3 |
鮫肝油 | - | - | 0.000040 | 0.72 | 0.72 |
鮫肝油 | - | - | 1.8 | 7.5 | 9.4 |
マンボウ肝油 | - | - | 1.8 | 4.9 | 6.8 |
ヤツメウナギ油 | - | - | 1.2 | 8.5 | 9.7 |
ヤツメウナギ油 | - | - | 0.60 | 1.4 | 2.0 |
杜仲茶葉 | - | - | 0.23 | 0.075 | 0.30 |
ドクダミ茶 | - | - | 0.13 | 0.021 | 0.15 |
ハブ茶 | - | - | 0.00031 | 0.00023 | 0.00054 |
ルイボス茶 | 輸入 | - | 0.0000060 | 0.000060 | 0.000066 |
ローズヒップ茶 | - | - | 0.013 | 0.00025 | 0.013 |
もうお茶まで飲めなくなるかもしれません・・・
「この値をより改善する」という考えで行われており、年々改善が行われています。
平成19年以降はデータはないのですか?
平成18年以前は同じようにデータを取っているようですが、20年以降はこのようにまとまっていなかったり、一部だけまとまっていて簡単な記載になっているようです。
確認していっても大きな違いはなく、むしろサーモンよりも大きな値が確認できる食品がわかります。
環境的な問題は存在し、天然と養殖はお互いを補完しあっている
養殖のサーモンが逃げてしまって、天然のサーモンと交配したり、養殖のサーモンは天然では生きられず大量に死滅してしまったり、大量の魚の排泄物は広い海では問題にならないものの、限られた養殖場では周辺の海を汚染するとされていたりという問題が存在しているようです。
特にバルト海は閉鎖された海のため、このような問題が取り上げられることがあるとのことでした。
天然魚を守る養殖魚
その一方で養殖できる設備が整っていない場所や以前から漁業が盛んな地域では天然のサーモンを捕獲し、食用として利用するわけですが、天然のサーモンだけでは世界の消費に耐えることができず、資源量が減ってしまっています。これを防ぐため持続性に優れた養殖サーモンが活用され、更に海洋汚染の影響をより減らすこともひとつの理由に、陸上養殖の研究も進められています。
余り知られていませんが、日本でもサーモンの陸上養殖が進んでいます。
養殖は寄生虫の懸念が少ない
天然サーモンでは寄生虫の懸念があるため寿司ネタにはなりませんでしたが、養殖は寄生虫の懸念が圧倒的に少なく個体差も少ないため、生で食べられる寿司ネタにすることができました。つまり持続性が高いうえに広範囲に利用しやすい資源であるといえます。
天然のサーモンをどのように増やすべきなのか
現在の世界のサーモン消費量を考えれば、養殖サーモンがいることで天然のサーモンが守られているとも言えると思います。
天然のサーモンの消費量を減らすのか、天然のサーモンの数を増やすのか。それに合わせて海洋汚染をどこまでクリーンにすることができるのかなどがあるようです。
キャットフードのサーモンは天然?養殖?
ここまできてようやくキャットフードにおけるサーモンなど魚の話になります(笑)
天然の漁獲量は養殖の生産量の約半分
キャットフードに使用されるサーモンは天然も養殖もあります。どちらが良いといったことはないように思いますが、使われているのは養殖の方が多いと思います。
天然の漁獲量は減少し、養殖の生産量は増え続けていることで養殖が天然の倍となりました。このため価格は天然の方が高くなります。
天然か養殖かは製造場所も影響する
天然か養殖かは製造される場所も大きく影響します。
ペットフードほどの大量の原材料を必要とする場合、養殖をしていない国、場所では必ずしも大量の養殖を輸入するよりも、漁獲量が多い地域では近場で天然を仕入れてもコストが変わらない、もしくは手間や管理面を考慮すると安く収まることもあるようです。また地域を持ち上げるために地産地消を掲げているメーカーもあります。
しかしペットフードの原材料として供給が持続的に可能であることが条件にあげられますので、あえて養殖を利用しているところもあり、多くが養殖を利用しています。
養殖サーモンのメリット
- 管理された飼育環境のためバラツキ(個体差)が少ない
- 価格が安定している
- アニサキスなど寄生虫の危険性が限りなく少ない
個体差が少ないことは味の安定にも繋がります。そもそも魚は個体差が激しいので、ロットによって味や香りが変わってしまいがちです。
ペットフードは原材料を加熱したり砕いたり混ぜたりしますので、アニサキスなど寄生虫は問題になりません。気持ち的な問題では、フードに混ざることを考えるといない方がベターですね。
天然サーモンのメリット
- 天然であるというイメージが良い
- 栄養素が高い
上記の通り、養殖でも抗生物質の使用はほぼなく、汚染物質も違いがありませんが、天然はワクチンの使用すらもありません。
また養殖よりも栄養価が高い傾向にあります。これはペットフード製造という面においては栄養調整が行われるので問題ではないかと思いますが、天然の栄養素という部分においてひとつのメリットであると考えられます。
デメリットのひとつの寄生虫は、天然サーモンは凍らせるので、例え寄生虫がいたとしても死滅します。更に加熱しますので問題はありません。
持続可能な資源を使用していく
天然サーモンは個体数減少の問題が言われていますので積極的に天然を使用することが世界の考え(流れ)に反しているという考えもあります。
SDGsでは「持続可能な消費と生産」や「海の豊かさを守ろう」といった目標も設定されており、ペットフードのみならず、製造業ではこうした点にも注目していく必要があります。
ペットフードは世界の肉の20%がペットフードで使われていると言われているように、人の食べ物まで浸食が始まっています。決して人と動物を区別するわけではないのですが、人と動物で限りある資源の取り合いをしている状態であると言われています。
ペットフードも「人が食べられる食材を使用すること」がひとつのポイントになっている時代です。このため当然原材料価格も年々上がっています。特にコロナウイルスの影響で値上がりは加速しています。
値段が上がれば天然から養殖に移行するということは起こってくるかもしれません。
こうした資源量の問題を改善するために虫を原材料とするペットフードもできてきました。
原発や船の座礁などで海洋汚染が進む天然と、日々環境改善が行われている養殖。広大な海で育つ天然と、限られたスペースで育つ養殖。答えはまだまだ出ないかもしれません。
また新しい情報が入りましたら公開したいと思います。
※このページの情報はあくまで弊社とヨーロッパのスタッフで調査、検討した内容です。
まとめ
- 天然と養殖はそれぞれにメリットがある
- 海洋汚染により天然の方が汚染物質含有量が多くなってきている
- 汚染含有量はサーモンに限った話ではなく、脂肪が多い魚に多い
- ノルウェー養殖の抗生物質使用量はゼロといっていい
- 天然の方がオメガ3脂肪酸含有量が多く、脂肪が少ない
- キャットフードでは養殖が多いが天然も使われる
- よりクリーンな養殖を目指し陸上養殖も進んでいる
多くのデータ量から現在のサーモンの状況がわかってきました。SDGs達成の面でも注目されている陸上養殖が進むことで更に状況は変わっていきそうですので、今後も注目していきたいと思います。