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ペットフードのpH調整とは
スタッフからpH調整について質問がありました。キャットフード、ドッグフードのpH調整は何故行うのかわかりにくい部分であると思いますのでここで紹介したいと思います。
pH調整とは食品のpHを酸性、アルカリ性など目的としたpH値に寄せることです。
基本的に犬や猫、人も極端なpHは好まれません。犬も猫も人も尿は弱酸性(pH6~6.5、7程度)です。(pH7が中性)
調整というと大きく調整されるイメージがあるかもしれませんが、例えば出来上がったペットフードのpH値を調整する行為ではなく、使用する食材や栄養添加物など設計の時点から計算します。
またこれから紹介する通り、ペットフードがアルカリ性になる可能性は低く、基本的に弱酸性となります。
酸性の食品
キャットフードやドッグフードはやや酸性(pH5.5~6程度)の肉や魚などの動物性原材料が多くなります。
アルカリ性の食品は少ないため、ほとんどの食材が弱酸性と考えておくとよいかもしれません。
- 肉
- 魚
- 乳製品など
- レモンなど酸味を含む食材
アルカリ性の食品(中性に近いが弱酸性)
アルカリ性の食材は野菜や果物があると言われていますが、実際にはpH7以上(アルカリ)の食品は多くありません。
- 乾燥わかめ(pH値6.5~7.5。わかめはpH値6~7)
- 乾燥ひじき(pH値6.5~7.5。生ひじきはpH値6~7)
以下も多いと言われていますが、pH6~7位で中性に近いが弱酸性です。
- 大豆
- エンドウ豆
- ほうれん草
- きゅうり
- アスパラガス
- セロリ
- ブロッコリーなど
こうした中でも大豆、エンドウ豆などの豆類はペットフードにも使用しやすいため、よく活用されます。
アルカリ性を示すミネラル
アルカリ性を示すものとしてミネラルがあります。ミネラルは金属としてpHは持っていませんが、それぞれ飽和水溶液の場合pH10を超える強いアルカリです。
- カルシウム
- マグネシウム
- カリウム
- ナトリウムなど
これらのミネラルは栄養添加物としてペットフードにも使用されます。
炭酸水素ナトリウム(重曹)やリン酸塩はアルカリ性にpH調整するために使われることがあります。
弱酸性以外の総合栄養食はなかなか難しい
このようにペットフードは弱酸性の食材がほとんどなのでアルカリ性に傾く可能性は0とは言えませんが、とても低いと言えます。
加熱するとpH値はアルカリに寄る可能性がありますが、エクストルーダーなどの加熱は限定的で酸性がアルカリ性になるほどの変化を起こすことは難しいでしょう。
キャットフード、ドッグフードのpH調整をする理由
ペットフードでpH調整(弱酸性化)をする理由はいくつかあります。
- 微生物の発生を抑える
- 食後の尿はアルカリ性に寄るためそれを抑える
- 食品の腐敗防止に役立つ
- 犬猫の尿路結石対策になる
微生物の発生を抑える
雑菌が繁殖しやすいアルカリ性に傾くと細菌が繁殖しやすい環境になり、尿路感染症、細菌性膀胱炎などのリスクがある可能性があります。
酸性では微生物、細菌が繁殖しにくいことで犬猫の健康維持にも配慮しやすくなります。
食後の尿はアルカリに寄るためそれを抑える
食後の尿は胃酸の影響などでアルカリ性に寄ります。これを抑えるために弱酸性に設定します。
たとえば食事も1日2回に分けるなどして尿pHの急激な変動を抑えることも推奨されます。
食品の腐敗防止に役立つ
弱酸性であれば微生物や細菌が繁殖しにくいので、弱酸性は食品自体の衛生状態を保つことにもつながります。これによって腐敗防止にも役立ちます。
反対にアルカリ性の食品は細菌やカビの繁殖、変色、風味の変化などの点において懸念があるため、保存や取り扱いに注意が必要です。
犬猫の尿路結石対策になる
pHは尿結石に影響しやすく、酸性に傾くとシュウ酸カルシウム、アルカリ性に傾くとストルバイトになりやすくなります。
犬や猫それぞれの体質によって酸性になりやすい、アルカリ性になりやすいがありますので、体の状態に合わせてpHを調整するのがいいのですが、それも大変なことです。
まず弱酸性であればストルバイト対策になります。
シュウ酸カルシウムは尿pH6以下で結晶化しやすくなると言われていますが、尿pH6ですと通常の尿pH状態でもなりやすいと言えますので非常に微妙なところです。
とはいえフードを強めのアルカリ性にして、尿pHもアルカリ性になるほどの対処をすると、ストルバイトの問題だけでなく、腐敗や細菌、微生物繁殖などのリスクが生じます。
総じて弱酸性に設計されることが多いかと思います。
その他にシュウ酸はカルシウムと結合するため、pH調整と合わせてミネラル(カルシウム)を抑えめにするなど栄養素のバランスを調整することがあります。
食品を完全に中性にすることは難しい
ぴったりpH7の自然由来の食材はないと考えられるため、中性化するためにはpH調整剤が必要になります。
例えば酸性が強い食品には炭酸水素ナトリウム(重曹)やリン酸塩を用いてアルカリ性に近づけることができます。
ただペットフードは大量の自然由来の食材を使用して作られるので、ロットごとにもpH値に違いが生じます。すると完全に中性を保つためには製造毎にpH調整剤の添加量を変更する必要がありますが、製造時に毎回測定して調整することは難しい上、栄養価も変わってしまいます。
このため、食品を完全に中性にすることは難しいと言えます。
中性のペットフードが作れても保存中にpH値が変わってしまう
もしペットフードを完全に中性にできるのなら、「尿路結石についてのみ考慮するならフードは中性の方が良いのではないか」と考えて工場と相談しましたが(笑)、そうはいきませんでした。
製造時点で中性であってもその後の保管で酸性やアルカリ性に傾く場合があります。環境要因で変わってしまうため、酸性なのかアルカリ性なのか不明という状況が生じてしまいます。
酸性に傾く場合
開封して空気に触れることで酸化が始まります。すると酸性に傾く場合があります。厳密には未開封でも中に酸素がありますので酸化は起こりますし、袋の素材も酸素透過率がゼロではない限り酸化は起こり得ますが劣悪な環境や長期保管をしない限り影響は大きくありません。
アルカリ性に傾く場合
湿気や水分の影響で微生物が繁殖しやすくなり、腐敗やカビでアルカリ性に傾く場合があります。こちらの方が問題が大きくなります。腐敗や微生物が少しでも繁殖しない環境はどうしても酸性寄りにする必要があります。
アルカリ性キャットフードを試したい場合
ホリスティック ケイナインキャビア/フィーラインキャビア
ホリスティック ケイナインキャビア/フィーラインキャビアはアメリカで唯一のアルカリ性キャットフードといわれています。
他のキャットフードを私も知りませんので、限定的な商品であるかと思いますが、もしアルカリ性キャットフードを試してみたい場合は参考になるかもしれません。
pH調整についてまとめ
より細かく愛犬、愛猫の状況にあわせてあげられるのが一番よいのですが、ペットフードは基本的に弱酸性です。療法食であってもシュウ酸カルシウムにも対応する場合はミネラルを抑える方向で対処し、アルカリ性にしていると明言しているフードはないのではないかと思います。
このためシュウ酸カルシウムが見られる場合は獣医師と相談し、治療とあわせてアルカリ性食や専用の療法食を選択するという選択になるのではないかと思います。
- 犬猫人の尿pHは弱酸性である
- 弱酸性にすることで各種メリットがある
- 加工食品は中性を保つことが難しい
- ペットフードのpH調整は原則弱酸性にし、療法食などではアルカリ性の商品がある