ジビエペットフードのメリットとジビエ(主に鹿)を取り巻く環境などのお話

今回はジビエペットフードの難しさについてお話したいと思います。

以前、麻生大学名誉教授とジビエについてお話させていただいたことがあり、その際にも以下のような話題が上がりました。

ジビエの有効活用についてペット栄養学会誌でも取り上げられていましたので、皆さんにも是非知っていただければと思います。

浸透してきたジビエのペットフード

ここ2~3年だけでも随分とジビエのペットフードが浸透してきたと感じています。

それまでに取り組んできた成果が現れているということであると思いますが、一般の飼い主さんにもジビエペットフードというものがどういうものか理解が進んできたからではないかと思います。環境が整うことでジビエを仕入れやすくなってきたということも重要です。

また食糧難についていわれるようになってきましたが、駆除をしなければならないだけ存在し、かつ人と動物の食を分けるという意味でも鹿肉などは力を発揮するのではないかとも考えています。

北里大学によるジビエペットフードの原料に関するマニュアル

ジビエペットフード原料に関するマニュアル

こうした確かな情報は裾野を広げるのに大変有効ですし、これから取り組む企業様にも助かる情報です。

解体方法や原価、設備、ペットフードとして販売する場合の注意点、消費者の意識など実に幅広くまとめられています

状況によるペットフード原料への適・不適

食用(人用)に向かない点ペットフード原料への適・不適
脂不足の夏イノシシ、幼獣(ウリ坊)○脂が少ないことはペットフード原料として最適。
放血不足の個体や部位(わなにかかった足など)、性臭がある個体○ペットの嗜好には影響が少ないため適。
搬入に時間がかかった個体条件付き○ジビエ処理施設のルールで決められた搬入時間を超えたものの、衛生的に問題ないものは適。
捕穫時のストレスにより肉質に影響があった肉(DFD、PSE肉)○色味や保水性に欠け、食用に不適となることがあるが、衛生的に問題のないものは適。
不人気部位、端材○トリミング端材や売れにくい部位。衛生的に問題ないものは適。
肉以外の副産物(内臓、骨等)条件付き○内臓については異常がなく、衛生的に問題ないものは適。
発見時に死亡していた個体×利用不可。
余分な脂身×脂はペットフード原料には不適。

これから取り組む方にはこうした生きた情報は大変有意義であると思います。

ペットフードだからといってどんな部位、肉でも使用することができるわけではなく、またその調理工程も大変重要です。加熱不足では食中毒になる恐れもあります。

ジビエの安定供給の難しさ

ペットフードは犬猫の継続的な食事となる可能性が高いため、ペットフードとして提供させていただく場合は安定供給が必要になります。

弊社の場合、一回の製造で数十トンの食材を使用しますが、それを必要な時に必要な分だけ買いたいということは大変難しいことです。

解体施設の近くで生息数を管理しなければならない

牛や豚、鶏の場合は飼育を行うことで安定して得ることができますが、ジビエでは野生の鹿などを捕獲してすぐに解体することが必要です。

このためには、解体する施設の近くに鹿などのジビエが安定して生息している必要があります。

しかし自然に生息するジビエが解体施設の周りで安定して存在することは不可能に近いことです。

野生のジビエの質を担保しなければならない

食用となる牛や鶏は人によって管理された飼育がおこなわれているので、個体ごとに許容できないほどの差は生じません。

しかし自然に生きる鹿などは個々に生きる環境が違います。

野生の鹿は肉質に違いが生じることでペットフードの完成品にも違いが生じます

適正価格の設定の難しさ

牛や豚、鶏と違い、ジビエの解体施設や調理作業が画一化、普及しているわけではないため、設備導入にも費用がかかります。

安定供給も難しいため、ジビエの価格は高くなってしまいがちです。

しかしその価格でもジビエ提供者側は「十分な価格になっていない(つまり卸価格が安い)」と感じているという問題が生じています。

例えば北里大学のマニュアルでは1,800円/kgで最低限生活できるラインということですが、ペットフードでは肉だけを使用するものもありますが、それ以外を使用することの方が多く、例えば肉50%、それ以外50%で2kgのペットフードを作ろうとしたとき、肉だけで原価が1,800円となってしまうため、製品にするころには原価が4~5,000円かそれ以上になってしまいます。

ジビエの捕獲を優先するか、活用を優先するか

最近のペット栄養学会誌に掲載されたこの話は大変興味深く読ませていただきました。

【鹿の個体数が増え過ぎたことにより、駆除を進めなければなりません。しかしその肉を活用するためには一頭捕まえたら解体施設へ運ばねばなりません。しかし運んでいる間にもう一匹捕獲した方が「駆除する」という目的には合致しているものであり、「駆除する」ことと「活用すること」はトレードオフの関係にある】というのです。

ジビエの大量捕獲は難しいということがよく理解できた話でした。

実はジビエの捕獲量は多いが活用が追いつかないという事実

上記のようにジビエの活用は難しいと考えられていますが、しかし(社)ジビエペットフード協会によれば「ジビエ(鹿・猪)の捕獲数116万頭に対して、食肉利用は9万頭と、ここ数年の食肉活用率は伸び悩み、捕獲頭数全体のたった8%しか活用されていません。」と、捕獲量は十分にあることがわかります。

活用する側の環境が整っていない、需要が高まっていないということでしょう。

(社)ペットフード協会では全国60カ所の食肉処理施設から、ペットフードに適した鹿肉・猪肉ジビエを提供しているということですので、こうした取り組みがより活性化していけば、ジビエのペットフードを作ってみたいと考えていた企業も手を出しやすく、少しずつ活用が広まっていくかもしれません。

養鹿(ようろく)について

実は国内では養鹿(ようろく)業者が存在します。家畜として鹿を育てています。

野生の鹿を銃で撃って捕獲した場合、銃弾が当たった箇所は食べることができません。また、野生では可食部の量に差があり、捕獲しても脂肪や筋肉が少なく、品質が悪いという場合があります。

養鹿(ようろく)すればこれら問題は改善します。更に鹿革も角や骨も余すところなく使うことができます。

このようにメリットが多いように見える養鹿(ようろく)ですが、需要自体が多かったわけではなく、補助金に頼る部分があったそうです。しかしBSEの問題により、補助金が畜産農家に回ったことにより、養鹿(ようろく)業者への補助金が打ち切られたことで、急減したという過去があります。

こうしたことから国内の養鹿(ようろく)業者は大変少なく、経営が如何に難しいかを表しています。

ジビエペットフードのメリット

安定供給の難しさはありますが、ジビエペットフードにはメリットがあります。

高タンパク質、低脂質、低カロリーで鉄分などミネラルが豊富

日本食育データベースから見てみましょう。

食品成分エネルギー水分たんぱく質脂質炭水化物灰分食塩相当量重量
肉類/<畜肉類>/しか/あかしか/赤肉/生10274.622.31.50.51.10.1100
肉類/<畜肉類>/しか/にほんじか/赤肉/生11971.423.94.00.31.20.1100
肉類/<鳥肉類>/にわとり/[親・主品目]/むね/皮なし/生23462.917.319.100.70.1100
肉類/<鳥肉類>/にわとり/[親・主品目]/もも/皮なし/生12872.322.04.800.90.1100
肉類/<畜肉類>/うし/[和牛肉]/かたロース/皮下脂肪なし/生37348.614.036.50.20.70.1100
肉類/<畜肉類>/うし/[和牛肉]/かたロース/赤肉/生29356.416.526.10.20.80.1100

鶏肉は100g中で皮付きにしてしまうと脂肪分がかなり多くなりますのでここでは皮なしを選びました。牛は赤身と脂肪のバランスが良い肩ロースにしています。

鹿肉は高タンパクで低脂質、ミネラルが豊富であることがよくわかります。

それでいてカロリーが低いのもポイントです。

同量を食べた場合には鹿肉が大変ヘルシーであるということがわかります。

おやつにぴったりの食材

カロリーが低いということは総合栄養食などカロリー量の規定がある場合は量を食べなくてはいけなくなります。

こうしたことからもカロリーなどの規定がない「おやつ」であればとても使いやすい食材です。

高タンパク質、低カロリー、低脂質。ヘルシーなのにタンパク質補給に有効です。

普段食べていないものだからこそ、食いつきもよく、気に入ってもらえる可能性も高まります。

 

 

 

メリットは用途次第でデメリットにもなる

ただし上記のように、カロリー量の規定がある総合栄養食などの場合は量を食べなければいけません。

つまり鹿肉のカロリーが鶏肉や牛肉の1/2、1/3ということを考えれば、鶏肉や牛肉と同量のカロリーを摂取するためには2倍、3倍食べなければいけません

2倍、3倍食べても脂質は比較的控えめです。しかしタンパク質はあまりに多く、ミネラルもかなり多いと言えるでしょう。炭水化物量もやや目立ってきます。

鶏肉も牛肉も鹿肉もそれだけで食べるわけではないので当然調整して配合するわけですが、鶏肉や牛肉と似たような配合のレシピではカロリーが足りないということになります。

このように高タンパク質、低脂質であることは間違いないのですが、用途、レシピに工夫が必要な食材です。

以前に書いたジビエの記事はこちらです。

ジビエのキャットフードについて。ペットフードにするのは難しい?メリットデメリットも紹介

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新婚さんで妊娠中。子どもができたことをきっかけに家族の健康について考え、10歳を超えた愛犬愛猫の健康も考えるようになった。現在犬猫の食事について勉強中!

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10匹以上の猫を飼っているお酒が好きな元気なおじさん。大量のキャットフードを購入することもあり、安価でありながら安全なキャットフードを探している。
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